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ココロの森

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第5話(NEW)



    第5話 ローマ真夜中道路事情&ホテル事情



  ローマのフィウミチーノ空港に到着した頃には、既に夜の10時をまわっていた。

  パスポートすら、全く見せないで素通りという、信じ難い『入国審査』を終え、
 (どの窓口の係官も「そんなもん、見せなくていいから早く行け!」というゼスチャーをするのだ。
  一体、どうなってるんだ?イタリアは!)
 バゲージを受け取り、到着ロビーへ向かう。

 さて、出迎えに来てくれているはずの現地ガイドさんはどなたであろう?
 と、きょろきょろと探す間もなく、
 『YAMADA / FUJIMURASAKI』という手書きの画用紙を高々と掲げた、現地ガイドのオバサンを発見。
 ちょっと太めで朗らかで、いかにもイタリアの『マンマ』(お母さん)といった感じである。
 にこやかに英語で挨拶をして、送迎用のミニバンの後部座席に乗り込む。
 イタリアの空港では、出迎えのガイドは、英語とイタリア語以外 たとえ話せても使ってはいけない決まりがある。
 何故だかは知らない。
 現にこのガイドのオバサンも片言の日本語が話せたのだが、空港では英語オンリー、車に乗り込んだ途端に日本語に変わった。
 理由を訊いてみたのだが、「法律でそう決まっているから」というだけで、どうもオバサンも詳しい理由は知らないらしい。
  ミニバンは、6,7人乗れる広さだったが、この時間の客は私達だけだった。
 運転手のオジサンが、後ろのがらんとした広い荷台に、私達のバゲージを軽々と放り投げるように乗せてくれた。
 ガイドのオバサンも乗り込んで、車は一路、ホテルに向かって走り出す。


  私達が宿泊する『ホテル・メディチ』は、ローマの中心、テルミニ駅から徒歩10分くらいのビジネス街の真ん中にある。
  空港からテルミニ駅までは車で約45分、
 と、ガイドブックには書いてあったのだが、この車、優に150km/hは越えているであろう、ものすごいスピードで飛ばしまくるので
 20分としないうちに車窓からローマの中心街が見えてきた。
 (高速道路には制限速度の標識もあったのだが、それがよく見えないくらい飛ばしていた。
  200km/hを越えていたかも知れない。
  客を乗せてこの速度。さすがイタリア。只事ではない。)

  ガイドさんが
 「アレ、ローマのピラミッド」とか
 「コレ、コロッセオ」とか
 片言の日本語と英語で、一生懸命説明してくれるのだけれども、
 何しろ あっという間にその横を通り過ぎてしまうので
 私達も「わぁ」とか「へぇ」とか、感嘆詞でしか感想が言えない。
 もうちょっと、ライトアップされたコロッセオをよく見たかったのだけど、そんな私達の願いは、景色と共に猛スピードで虚しく後ろに流れ去る。

  ローマ市内の中心に入ると、道路が石畳に変わり、そのせいで車はガタガタと激しく揺れる。
 私達もガタガタと震える。
 日本と違って、道路には車線やセンターラインのないところが多く、しかも道幅がとても狭い。
 おまけに道の両歩道側には、びっしりと、それはそれはキレイに路上駐車の車が並んでいる。
 しかも夜中なので、ローマ名物の二重駐車は当たり前。歩道に乗り上げた三重駐車まで、頻繁に見かける。
 こんな道路事情の中を、車は飛ばす。
 かなりのスピードで、縫うように。
 もう コワイなんてもんじゃない。

 対向車が来ても、交差点でも、運転手さんは相変わらずである。 
 流石に150km/hは出ていないけれども、猛スピードでスイスイと、事も無げにこの細い迷路のような道を通り抜けてゆく。

 曲がり角を曲がるたびに、後ろの荷台で私達のバゲージが
 ガシャーン、ドシャーンと派手な音をたてて滑っている。
 なんだかもう、とてもじゃないけどガイドさんの説明を聞くどころではない。
 ただただ、無事にホテルに着くことを祈るのみである。

  命からがら、ようやく辿り着いた『ホテル・メディチ』は、大通りから少し入ったところにある、こぢんまりしたクラシカルなホテルだった。
 エントランスで、旅行会社の日本人のお姉さんが出迎えてくれ、
 私達に代わってチェックインの手続きと、ホテル周辺の説明をしてくれる。
 ローマ市内の詳しい地図を手渡され、この辺りは夜は出歩かないほうがいいですよ、というところに赤ペンで○をつけてくれた。
 テルミニ駅周辺は特に危ない地域だとのこと。
 そうなのか、気をつけなければ。

 明日からは、このお姉さんもホテルにはいない。
 今のうちに、観光時間やルートのついてのアドバイスを貰い、
 (飛行機の中での打ち合わせが役立った)
 ルームキーを受け取って、部屋に向かった。

  226号室。
  日本とはフロアーの数え方が違うので、3階になる。
 普通のエレベーターの扉の前に、もうひとつ、古い木の扉の付いた、二重扉の手動開閉式エレベーターで3階へと向かう。
 このエレベーターは、乗り降りの際、外側の木の扉を手できちんと閉めておかないと
 他の階でボタンを押してもエレベーターが来てくれない仕組みになっている。
 (と、旅行会社のお姉さんが教えてくれた。)
 エレベーターひとつにしても、古いものを守っていくのは大変だ。
 廊下の突き当たり近くの、ちょっと奥まったところに226号室はあった。
 ヤケに大きくて重いルームキーを差し込んで、半分だけ回すと、これまた重い木のドアが開いた。
  部屋は想像通り、広くはなかったが、何故かトリプルルームであった。
 入ってすぐ右側に、古びた大きめのクローゼットがあり、
 世界中の旅行者が残していったと思われる安物のハンガーが約50本、ズラリと並んで私達を出迎えてくれた。
 左側にはバスルームがある。
 バスタブにはシャワーカーテンはなく、壁際には床に届きそうな位、長~いヒモが下がっている。
 あぁ、これこれ。これがガイドブックに書いてあった「ヒモ」だ。

  『イタリアのホテルのバスルームには、換気扇のヒモにそっくりなもの下がっている事がありますが
   これは引いてはいけません。
   非常ベルです。


 ・・・危ない危ない、こういう珍しいものにすぐ手を伸ばすやまだに教えておかなければ・・・。

  何はともあれ、ここがこれから一週間を過ごす部屋になる。

  やまだは窓側、私は入り口側のベットを陣取り、早速荷ほどきを始めた。
 クローゼットから使えそうなハンガーを選びだし
  (使えないハンガーが、何故こんなに山ほどあるのだろうか?)
 なかなか開かない、年代物のチェストの引き出しを掃除して
  (また埃がヒドイんだ、これが・・・)
 やっとこさっとこ落ち着いたのは、日付が変わるころだった。

  さて、明日の朝は早い。
  さっさとシャワーを浴びて寝よう。

  ところが見た目はピカピカのシャワーも、実は年代物だったらしい。
 ヘッドの繋ぎ目からお湯がジャバジャバ漏れてきて、肝心のヘッド部分からはチョロっとしか出てこない。
 少しヘッドの傾きをずらすと、今度は全くお湯がでない。
 仕方ないので、チョロチョロの箇所のまま固定して洗い始める。
 しかしこの水量では、シャンプーの時は物足りない。
 仕方なく、バスタブ給水用の蛇口の下で髪を洗うことにした。
 が、今度は少し蛇口をひねっただけで、ものすごい勢いでお湯が出てきて、洗髪が終わるころには、トイレの方まで水浸しになってしまった。


  やれやれ、これではお風呂に入るのも一苦労である。
  明日から一体、どうなることやら・・・


             
                 第6話 『初日の試練と感動』につづく


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